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2021年にM&Aを行った会社は約4,500件。

ある調査によるとM&Aを行う前に予想していた効果が得られたかという質問に対して、『成功した』と答えた企業が37%、『失敗した』と答えた企業が21%という結果が発表されています。

また、M&Aへの抵抗感がある人が40%以上いるというのも事実です。

抵抗のある人の中には、M&Aにまだ身売りのようなマイナスイメージを抱いていたり、手数料の高い商売だと認識していたり、情報漏洩を心配していたりと、M&Aの失敗を懸念している方も多いようです。

M&Aは売手企業からすると一世一代の決断であり、買手企業からしても最も高い買い物です。

それならなんとしてでも満足できるM&Aを行いたいですよね。

そこで今回はM&Aを行う際に気をつけるべきポイントを解説いたします。

M&Aの失敗例

M&Aの失敗例にはブランドの毀損、財務の不安定さ、信用の失墜、組織の団結力の低下、社員のモチベーションの低下、経営権争い、経営陣の方向性の違い、社風のミスマッチなどさまざまな例が挙げられます。

M&Aの契約を行う際に想定していたシナジーが全く得られないというのは失敗例といえるでしょう。

これらのミスマッチを起こさないために、下記の点に注意してM&Aを進めていきましょう。

秘密漏洩

買手と売手のマッチングが成立すると、まず最初に秘密保持契約を結びます。

M&Aは両社の会社の情報をすべてお互いに開示する必要があります。

そのため、内部の情報は絶対にその目的以外で外部に漏れてはいけません。

また、M&Aを計画中であることも契約が成立するまで、M&Aを決行するまでは隠しておくべきです。

なぜなら企業価値の選定の際に参考にする株価に影響が出てくるからです。

既存の大株主がそのM&Aにマイナスのイメージを抱いたら、新規の大株主がそのM&Aに大いに期待したら、株価は大きく動きます。

その株価の動きを見て他の株主たちも株を売ったり買ったりします。

株価が大きく動きすぎると企業価値の評価も大きく変わってくることになります。

その値動きはただの噂話に踊らされていることに過ぎず、会社のいままでの業績とは一切関係ありません。

株価が問題となった裁判ではいつも、どの時点の株価を基準とするかが問題になります。

M&Aの話を進めている間は、こういった内部要因が株式市場に影響を与えない様に伏せる努力をするべきと言えます。

簿外債務の有無

企業の買収価格が決定してから買手企業の簿外債務が見つかった、売手企業の簿外債務が見つかったという場合があります。

簿外債務とは貸借対照表に記載されていない債務のことを言います。

内部の人が知っていたけれど隠していた場合は大問題ですが、内部の人も気づいていなかった場合も考えられます。

また、自社の簿外債務を気づかずに提出してしまったら、それが後々明らかになると会社のリスク管理やマネジメントの怠惰が疑われてしまいます。

健全な会社の印象を崩さないためにも簿外債務がないかどうか自社のことも提出する前に今一度確認しておくべきです。

では簿外債務にはどのようなものが含まれるのでしょうか。

買手企業・売手企業を選ぶときには契約を完了する前に下記の点を調べておくと安心です。

偶発債務

企業がある債務に対しての保証人になっている場合、賠償責任を負っている場合です。

訴訟事件などの場合は企業側も正当性や債務の不存在を主張しているため貸借対照表には記載されていないことがあります。

隠れていた偶発債務が見つかると巨額の損失となります。

企業価値の算定方法にももちろん響きますし、会社合併後の株価にも大きな影響を与えることになるでしょう。

飛ばし

含み損を抱えた資産を他社に売却したカタチで損失を隠している場合があります。

受け皿のようなペーパーカンパニーを持っていて、その会社に売却したということにしていわゆる粉飾決算を隠すことができるのです。

かつては親会社・子会社間でこの取引を行っている会社が多く見られました。

飛ばしの方法で10年間損益を隠し続け、最終的に粉飾決算として処理したという事件が過去に世間を騒がせたこともあります。

事業の整合性のなさ

たとえば『M&A仲介会社からおすすめされたから』『投資銀行から売りに出されたホットな会社だから』という理由で無理に買収する会社を選ぼうとすると、統合後に事業戦略の方向性の違いでうまくいかない場合が多いです。

新規事業に参入する際に、その業種のノウハウごと一括購入しようとして全く別業種の会社を買収するという選択肢も考えられます。

事業の多角化を目指して新規事業の基礎が自社内で整っていない状態で会社を買収すると、うまく売手企業のノウハウを生かしたビジネスを行うのはなかなか難しいです。

これには某旅行代理店の証券会社の買収が例として挙げられます。

ネット証券にいち早く参入しようと口座を大量に開設したところ、システム障害を起こして業務停止という事態に陥ったという事例があります。

相手企業の業種に関して全く知識がないままに経営統合というのは至難の技ということです。

無理やりの統合

M&Aにおいてとにかくスピード解決しようと強引に契約成立まで持っていこうとする動きにはリスクがあります。

買手の言うことを鵜呑みにして、内部の社員の意見をないがしろにしていると内部から組織が壊れていきます。

外部のことを重視しすぎると内部のことが見えなくなりがちです。

統合した後の従業員のことや、経営権や管理職の割合をどのような取り決めにするのか。

かつて某インターネット会社があるテレビ局を買収し、統合後に経営権の争いが起こった事件がありました。

大きな話題を生んだせいで、投資に無関心だった人たちをも巻き込んだ大規模な株式争奪戦になり、社会に衝撃を与えました。

この事件が今でもM&Aに嫌悪感を抱く人が減らない一つの要因と言えるでしょう。

M&Aの契約の場面には経営の上層部の人しか居合わせないとは思いますが、スピード契約を重視するあまりに内部の人たちの意見を聞かない決定のないように気をつけましょう。

後々そんなことは聞いていないという問題があると、不誠実な交渉としてあとから裁判になったときに不利に働いてしまいます。

デューデリジェンスの適切さ

M&Aを行う会社は現在増加していますが、その時代の流れに乗って、よくM&Aのことを知らないのにM&Aに手を出すとリスクがあります。

現在M&Aの仲介会社は何千社にも増えていてM&A業界は玉石混交です。

自社を今売却した場合いくらになるのか、見積もり額は自分で算定できますか?

知識不足だとここの部分で騙されます。

仲介会社や買手の言いなりになるだけでなく、自社の相場をきちんと理解してM&Aに望みましょう。

M&A仲介会社がよく行う企業価値の算定方法としては、上場会社の場合『時価総額+営業利益×3年分』という式が用いられます。

未上場会社や中小企業の場合は時価総額の部分を所有している資産などから推定して算出することになります。詳しくは下記の記事を参照してみてください。

企業価値以外にも買手企業と売手企業の場合、M&Aの方式は株式交換が適切なのか、問題が発生した場合は誰がどのように処理するのか、それらはきちんと自分たちが理解した上で、専門家の意見を聞くようにしましょう。

市場価値の毀損

統合することで、社会的に自社のブランドイメージが悪くなったり、取引先からの信用をなくしてしまうことがないよう注意が必要です。

たとえば、それぞれにロイヤルカスタマーを持つ競合同士が統合したり、取引先に競合他社がいるのに統合したり、それらは既存の顧客や既存の取引先にどのように映るでしょうか?

会社統合をしたからと言って、すぐに取引先との関係を切れるかどうかはわかりません。

相手方の取引先企業もきちんと確認しておきましょう。

財務・人事の揉め事

人事評価制度とも関わってきますが、たとえば企業統合したことで、売手側の企業にいた人たちの給料が下がったり、昇給の制度に関して違いが見られたりなどで揉めるケースが考えられます。

そのためには人事評価の統合が必要です。

また、企業文化が違い過ぎて人間関係がうまくいかない、そもそも社員同士の性格が違いすぎるというのは従業員同士の連絡・連携のミスに繋がります。

それから統合した後は誰の言うことを最優先に聞けば良いのか、社員の意見も聞いて齟齬がないようにしておくべきです。

従業員のケアがどうして大事なのかと言うと、従業員が不安になったら集団で辞めてしまう可能性もあります。

優秀な社員のモチベーションを下げてもいけません。

取引先よりも優先すべきなのが内部の混乱を招かないことです。

従業員の混乱は取引先や会社の売上に波紋を呼ぶのは時間の問題です。

PMIの重要性

上記のような問題を解決するために大切なのが経営統合作業(PMI)です。

2つの会社を1つにする場合、売手企業と買手企業のどちらもが賛同できる社内システムの統合が必要です。

人事制度、就業規則、システムなどを共通にする作業をなるべく早く行わないと、社内で揉め事の種となります。

つまりPMIがうまくいっているかどうかでM&Aの成功・失敗が決まると言っても過言ではないのです。

人事制度の統合

人事制度には人事評価制度、勤怠管理システム、昇給制度、退職金に関する取り決めなどが含まれます。

システムを一元化することでエラーや漏洩を防ぎ、管理コストの削減にも繋がります。

2社を統合したときに考えられる人事制度の1つとして『たすき掛け人事』が挙げられます。

これは2社の力関係が明確でない場合、たとえばどちらかの会社に買収されるカタチではなく2社で全く別の新会社が作られるようなカタチのM&Aの際に採用される方法です。

たすき掛け人事は両社の代表が社長・会長のように充てられることを言います。

会社の社長がNo.1だったとして、偉い順に10人がいるとしたら、奇数ナンバーがA社の役員、偶数ナンバーがB社の役員から選出されるというシステムです。

しかしこの制度には賛否両論があります。

このルールに縛られすぎて、各役員の適した能力を発揮できるポジションを与えられなかったり、他の社員の昇進にも弊害を与えることになりかねません。

永遠に上記の縛りが顕著に残ることになるので、合併前に期待したシナジーが発揮できない可能性も高くなります。

一般社員の人事面でも人事評価制度、勤怠システム、昇給制度、退職金制度なども2社の規定を統合し、2社の社員の間で格差を生まない必要があります。

人件費の負担と従業員のモチベーションの両者のバランスを考えてシステムの改定を行いましょう。

カスタマー向けサービスの連携・統合

カスタマー向けサービスでは、主に連携か統合といった選択肢が存在します。

例えば銀行の預金サービスのようなものがあったとして、2業種以上を統合した場合それぞれが持つ顧客データの管理方法や暗号化方法などはすべて異なっています。

しかし一つの銀行となった場合これらは現状のデータを用いたうえですべてが保全されるようにシステムの統合を行わねばなりません。

カスタマー側に余計な手続きを請け負ってもらうことはできないからです。

統合後の新しい口座にお客様に自分で登録しなおしてくださいという方法を選んだ場合、一時的にお客様は口座を使えなくなりますし、手間をかけてしまうことで顧客が他社に流れてしまう可能性もありますので自社でもとの顧客データの移行までを行う必要があります。

顧客番号を新たに発行するのであればどのようにナンバリングするのか、以前のデータは保持したままで置換して新しくするのかなど、両社が納得する方法を選択しなければなりません。

これには莫大な費用がかかる場合もありますが、いち早く対応しないと顧客に一番迷惑をかけることになります。

統合が終わるまでの間にシステムが停止してしまったり、顧客情報漏洩などの問題が起こってしまったら大変です。

上記のような業界の場合、機密情報や個人情報を扱っていることから、顧客への説明が求められたり、作業中の監視が求められたりもするので、M&Aを行う際には早めに準備しておいた方が良いでしょう。

シナジーチェック

M&Aを行う際に企業の買収価格は合併後のシナジーを考慮して決定しています。

シナジーとは売上10億円の会社が2つ合併したときに、売上が20億円ではなく、30億円・40億円と何倍にもなる相乗効果のことです。

たとえば地域開拓を目的とした同業種のM&Aの場合、ある特定の地域はA社・別の地域はB社の商品やサービスが売れていたとします。

その状態に対して従来顧客へのアップセルの提案や地域を横移動しても引き続きM&A後の会社のサービスを提供できるといったメリットがあります。

顧客が2倍になることで会社の売上が3倍以上になることが見込まれていたとしたら、企業の売買価値は企業価値の算定式『時価総額+営業利益×3年分=企業価値』よりも高額で売買されたかもしれません。

この場合、期待されたシナジーをきちんと実現して先行投資を回収する必要があります。

統合直後は売り上げと経常利益が目論見通りに伸びているか、社員の様子などを定期的に監視できるような制度を整えておく必要があります。

そして上記の制度の整えとシナジーの達成に期限を決めます。

PMIはすべて完璧にやろうとすると永遠に時間がかかる作業と言われています。

統合後の事業計画を明確に決めて、M&Aの成功を目指しましょう。

投稿者プロフィール

レイニー
レイニー
美容が好きな20代。貯金は美容にかけていることが多いです。
インコのザシアンと一緒に暮らしています。

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