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2021年のM&A件数は4,000件を超え、2000年以降のM&Aバブルに引き続き、M&Aバブル第2期に突入しています。

今やM&Aに対して敵対的買収や経営権の乗っ取り、大規模リストラなどのマイナスのイメージを持つ人は格段に減っており、新規事業のための資金調達・企業の復興・ブランド力アップなどの理由で会社売却の検討を始める経営者の方も増えています。

こちらの記事ではご自身の会社が果たしてどのくらいの市場価格になるのかという疑問について、M&A仲介会社の企業価値算定方法より解説をいたします。

企業価値の判断基準

会社の売却価格の算定にはさまざまな判断基準があります。

単純に時価総額や直近の利益などだけでなく、買手企業との事業の相性や売却時の市場の動向にも左右されます。

その為、どの様なタイミングでコンサルタントへの依頼をするか、また実際の売却をするべきかどうかなどの判断の指標となるものが実は非常に曖昧です。

あなたの企業の適正価格を判断する為には市場の思惑、M&Aコンサルタントの思惑、そして買い手側の理解など多くの要素を勘案する必要があります。

M&Aをコンサルタントの所属する仲介会社に一任する場合も、事前の調査は不可欠で適正価格の決め方を知っておくだけでも交渉において非常に大きな武器となります。

M&Aの主な流れ

ほとんどのM&Aの流れは、下記のように決まっています。今回は売手から見たM&Aの流れです。

  1. ティーザー:売手に対して仲介会社が買手企業の候補を上げること。
  2. 秘密保持契約:M&Aでは会社の決算書や登記簿謄本などの重要機密事項を2社間、仲介会社との間でたくさんやり取りすることになるため、情報開示をする前に秘密保持契約を結びます。
  3. 情報パッケージの交付:売主会社の情報を買主候補の会社に提出すること。
  4. バリュエーション:その企業をいくらで買うか、企業価値を算定すること。
  5. 基本合意書の作成:買手企業が決定して、M&Aを進めていくための本契約を結ぶこと。

上場会社の企業価値の算定方法

企業価値の算定方法は、会社が上場しているか未上場かによって異なります。

会社が上場している場合はその時の株価・時価総額が重要な手がかりとなります。

企業価値算定の計算式

企業価値の算定とはバリュエーションのところに当てはまります。

多くの仲介会社が採用している企業価値の計算式は以下の通りです。

時価総額営業利益×3年分企業価値

秘密保持契約の時点で多くの仲介会社が、直近3年分の決算報告書の提出をお願いしているため、過去3年分の営業利益が企業価値を評価する上で最も重要な要素となるでしょう。

そして、過去3年間の営業利益が横ばいであれば、1年の営業利益の3倍が売却額の基準となります。

過去3年間の営業利益が毎年1.2倍ずつ成長していた場合、今後も同倍率で上がっていくことが見込めるかが慎重に判断されます。

上がっていくと判断された場合には、『営業利益×3』のところが『営業利益×(1.2+1.44+1.728)』という計算になります。

株価算定(時価総額)と企業価値の算定の関係性

企業価値=株主価値(時価総額)+債権者価値(有利子負債)

株主価値(時価総額)=株価×発行済み株式数

株主価値≠企業価値

上記の計算式にもあるように、企業価値というのは株主価値(時価総額)に債権者価値を加えたものです。

株主価値(時価総額)というのは株価×発行済株式数で算定されるもの。

しかし株主価値と企業価値はイコールではありません。

株主価値が問題となるのは会社を売却するとなったときに、会社を売却することを発表したときに反対株主がいた場合、その株主が所有している株式を自ら売りたいと言った場合は、会社側は株主価値価格で株式を買い取ることとなります。

一方で株主が会社売却には反対だが、株式は手放さないと言った場合、会社側は『プレミアム』という名の企業価値をプラスした企業価値価格で反対株主から株式を買い取り、強制的に株主リストから追い出すという方法(キャッシュアウト)があります。

その場合は反対株主をお金で納得させるわけですから、企業価値として株価を上乗せする必要があるということです。

株価算定に出てくるEPS・PBR・PERとは?

上場会社の企業価値を算定する場合の指標の一つが株価です。

株価自体は市況に左右されやすいので、現在の株価だけでなく株価の今後の動きも予測できるようにしておく必要があります。

ここでは株価算定の際に用いる『EPS』『PBR』『PER』というワードについて説明していきます。

EPS

まず『EPS』とは一株あたりの当期純利益を指します。会社の当期純利益を発行済株式総数で割って出します。

EPS=当期純利益÷発行済株式総数

なぜ売上高ではなく当期純利益で計算するかと言うと、株主への配当金は当期純利益から算出されるためです。

つまり、EPSの上昇は投資家の利益に直結してくるため、EPSが高ければ高いほど投資家にとって良い株だということです。

また、EPSの成長率も企業価値を判断する際に評価すべきポイントです。

EPSの成長率が高い=将来株価が上がる可能性が高いということになるからです。

EPSの成長率は下記の計算で求められます。

EPS成功率(%)=(当期EPSー前期EPS)÷前期EPS×100

PBR

『PBR』とは時価総額に対して資源がいくらあるかというのを示す数値です。

PBR(株価純資産倍率)=株価÷1株あたりの純資産額

たとえば、株価が1000円で1株あたり純資産が800円の会社なら、PBRは1.25倍(1000円 ÷ 800円)となります。

つまり有形商材の多い会社の場合はPBRが低くなって、無形商材が多い会社はPBRが高くなります。通常PBRは1.0が健全な数値だと言われていますが、無形商材だけを売っている会社などは往々にしてPBRが何百倍になっている会社もあります。

たとえば電子データを商材としていたり、コンサル業の会社や、人材会社などがそれに当たります。

PER

『PER』は株価収益率といって株価をEPSで割って算出します。

PER(株価収益率)=株価÷EPS

PERの数値は株価の割高度・割安度を測る指標として使われます。

PERは一般的に健全な基準として日本株で20倍が妥当な数値と言われています。

これは投資家準拠な捉え方であるため、必ずしも20倍が目安になるとは限りませんので、投資を考えている会社の過去のPERや競合企業のPERの数値を基準として比較すると良いです。

未上場会社の企業価値の算定方法

未上場会社の場合は企業価値を算定する際に、株価を参考にすることができません。

そのため、上場時に使った計算式『時価総額営業利益×3年分企業価値』の時価総額の部分を他の資産状況から見積もる必要があります。

有形商材と無形商材

未上場会社の企業価値を見積もる際に参考になるのが商材の価値です。

企業が持っている商材で価値が判断できるものには、大きく分けて二種類あります。

それが『有形商材』と『無形商材』です。

ここからはどのような商材がどちらに分類されるものか、それらの価値をどのように評価するのかについて解説していきます。

有形商材とは

有形商材には主に以下のモノが含まれます。

穀物・貴金属・石炭・原油・家電・衣類・不動産・食料品等

業界で言うと、メーカー・自動車・不動産・アパレル業界・商社などが挙げられます。

有形商材は比較的価値の算定が簡単です。

単純にその商品の売上高の合計が商材の価値と判断すれば足ります。

無形商材とは

無形商材とは以下のようなモノを指します。

データ・人材・ブランド・技術/ノウハウ・人脈/取引先等

業界で言うと、IT・人材・コンサル・高級ブランド・工場・広告・芸能・ホテル(サービス業)などが挙げられます。

また、現在注目を集めているブロックチェーン技術に関連した商材(メタバース、暗号資産)ももちろん無形商材です。NFTに関しては今後の市場の動きにより評価が分かれてきそうです。

暗号資産は特に価値算定が測りにくいので売却価格も乱高下しやすいです。

もちろん、有形商材の代表例で挙げた業界は有形商材にプラスして人材やノウハウなどの無形商材も所有していることになります。

つまり

有形商材を取り扱う会社は、有形商材+無形商材

無形商材を取り扱う会社は、無形商材

の価値をそれぞれ判断する必要があるということです。

たとえば海運事業者の場合、船と倉庫が主な商材であるのでそれらの価値は有形商材として評価されます。

それに加えて大型船舶を運転できる免許を持った人材などの無形商材の価値も評価する必要があります。

無形商材の価値には流動性があるので価値を判断するのはとても難しいです。

シナジーとは

最後に上場会社も未上場会社も共通して、企業価値を算定する際に考えたいのがシナジーです。

シナジーとは会社同士が合併することで生まれる相乗効果のことを指します。

会社の年間利益が10億円の会社と10億円の会社が2つ合併して、将来的に年間利益20億円の会社になるのではなく、30億以上の会社になる見込みがあるかどうかという判定です。

有形商材を売る企業だと、例えば基板メーカーが需要拡大と生産スピードの効率化を図るために半導体メーカーを傘下に収めたり、自動車メーカーがシャフトなどのパーツ工房を買収したり。

無形商材を売る会社だと、例えば買手の会社がある実験を成功させるために売手の会社が持つデータを欲しがっていたとしたら、それは買手の会社にとってその会社の売上以上に価値のあるものです。

また、競合だからという理由で一緒に仕事ができなかった取引先同士が、ある合併をきっかけに一緒に仕事ができるようになるとしたら、その人脈は何倍もの価値を持つことでしょう。

シナジー効果にはマイナスのものもあります。たとえば高級ブランドが全く業種のことなる庶民的な商品を取り扱う会社に買収されたとしたらブランドイメージを毀損する可能性があります。

上記のようなM&Aは、M&Aを公表した後に株価が急騰したり、大暴落する可能性をはらんでいます。

シナジーの予測は注意深く行う必要があります。

それを間違えると、後々株式を売却した人や会社を売却したオーナーとの間で揉め事の種となり、裁判沙汰になりかねません。

希望価格で売却するためには

上場している会社は、基準となる計算は時価総額営業利益×3年分企業価値です。

もしも過去数年で売上が右肩上がりの場合は、今後3年の営業利益の増加を考慮して、基準額に上乗せできる可能性があります。

それからM&Aを行ったときに、株主や他の投資はどのように感じて株価がどのように変化するかも考慮して、自社の企業価値を見積もってみてください。

未上場会社の場合、時価総額を見積もることから始めます。

自社の商材のどの部分が有形商材でどの部分が無形商材なのかを判断して計算してみてください。

時価総額がおおよそ算定できたらその後は上場会社と同じように営業利益の直近の伸び率とM&Aのシナジーを考慮して企業価値を算定しましょう。

このように自分で自社の企業価値をおおよそ算定できると、仲介会社に依頼するのも安心できます。

大幅に異なる見積額で妥協する恐れもありませんし、自社の価値についてプレゼンして交渉することも可能です。

仲介会社の母体数が増えている今、経営者の方々は適切な仲介会社を見極められることが求められています。

自社の価値を十分に理解し、納得のいくM&Aを実現してください。

投稿者プロフィール

レイニー
レイニー
美容が好きな20代。貯金は美容にかけていることが多いです。
インコのザシアンと一緒に暮らしています。

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